近未来の日本が、本格的な宇宙時代を迎えるにあたり、2003年、「北の地から宇宙のフロンティアを拓け」の呼びかけのもと、「宇宙産業の創造・確立」を構想し、「北海道衛星プロジェクト」を立ち上げました。
北海道の産学連携で設計・開発・製造した超小型衛星を打ち上げ
人工衛星の名前は、新聞等メディアを通した市民への呼びかけにより、宇宙の町【大樹町(たいきちょう)】を由来とした、「大樹」と決定
メインミッションは、食料自給率180%である北海道を支える「農業リモートセンシング」
人工衛星データを市場に提供し、食料自給率に貢献
北海道衛星プロジェクトの目的
農業リモートセンシング技術の事業化の実現を目指しています。
- 農業リモートセンシングによる精密農業生産システム・パッケージ化
- 精密農業生産システム・パッケージを全国に普及させ、生産者の高齢化問題への対応策、農業の工業化へ貢献
- 海外へのパッケージの輸出 《世界の食料問題への解説への貢献》
事業化を行うためには、データ利用サービスの事業化と超小型衛星システムの開発の2点を重要項目として取り組んでいます。
精密農業リモートセンシングのデータ利用サービスの事業化
- 対象は「コメ」と「小麦」。全国で使える『農業データベース』を構築
- 全国に『遠隔観測装置』を設置して基礎データを取得。『無人機』を併用してデータ収集を支援
- 「施肥管理」と「生育管理」の情報をリアルタイムに配信する「データ利用サービス」の普及へ
香川高等専門学校との共同研究にて「ハイパースペクトルカメラによる圃場の生育の遠隔管理実験」にて取り組んでいます。
超小型衛星システムの開発
- ハイパースペクトルカメラ(HSC)を搭載し、従来の衛星にはできなかった「品種別の生育状況の数値化」を行う
- 超小型衛星の複数機体制を目指し、画像取得とデータ配信の利用頻度を10倍以上に上げることを目標
2004年よりハイパースペクトルカメラの研究・開発を進めており小型衛星搭載型ハイパースペクトルカメラの開発を行いました。 また、ハイパースペクトルカメラで取得したデータ「ハイパースペクトルデータ」の利用に関しても研究を進めています。
必要性
民間宇宙開発事業の参入状況
2003年より北海道から農業リモートセンシング衛星を打ち上げるための北海道衛星プロジェクトを立ち上げています。2006年には、道産人工衛星「HIT-SAT」を宇宙科学研究所「M-V型7号機」の相乗り人工衛星として打ち上げた。2011年には、文科省の超小型衛星研究開発事業にて宇宙用ハイパースペクトルカメラ「HSC」の開発を行いました。宇宙と地上との計測の連続性を保つために、ハイパースペクトルカメラHSCシリーズを製品化すると共に、2004年より道内の農試や農業普及センターの指導の下で圃場での計測を続け、農業リモートセンシングンの実地データの蓄積を行ってきています。
この10年間で超小型衛星の技術は進歩し、内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の “日本発の「ほどよし信頼性工学」を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築”(代表:東京大学・中須賀真一教授)の成果として、Hodoyosi衛星シリーズが開発され、2014年6月にHodoyosi-3号機・4号機が打ち上げられました。
また、東京大学・東京工業大学の大学院卒業生らが設立したベンチャー企業が実用レベルの衛星を開発し、2014年11月にはHodoyosi-1号機を打ち上げています。
以上のようなハイパースペクトルセンサ技術、超小型衛星及び計測・利用技術の進歩により、今や超小型衛星のコンステレーションによる農業衛星が宇宙ビジネスの射程に入ったといえます。
目的
北海道は、日本の食糧基地ともいえる地域であるが食糧の安定供給は国土保全における重要な課題といえます。しかしながら、就農者の平均年齢が66歳といわれるように高齢化が進み、同時に若者の就農離れは現在の日本における大きな課題といえます。その解決策として農業の機械化・自動化及びICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)化が急務と言われています。北海道では、2000年代初頭に空知を中心に全道の80%の稲の圃場のタンパクマップが人工衛星画像から作成され、主として土壌評価が行われてきました。また、北海道大学の野口伸教授らを中心に準天頂衛星を使った高精度の測位情報による無人トラクターの実用化が大きく発展しています。同時に、UAV(無人航空機)によるリモートセンシングによる土壌の腐食成分のマップ情報を可変施肥装置に入力することにより、従来の過剰な施肥を最適化する技術が芽室で確立され、肥料を平均30%削減できることが実証されています。
農業リモートセンシングでは、3つのフェーズにわけることができます。
- 第1フェーズ(土壌管理):収穫直前に年1回の撮影を行い、次年度への土壌管理
- 第2フェーズ(作物管理):週1回程度の頻度での衛星画像情報を農業の生産現場に提供
- 第3フェーズ(ブランド管理):第1フェーズ、第2フェーズにおける情報共有
第3フェーズへステップアップするためには、超小型衛星群(コンステレーション)によるスペクトル画像の計測体制を整備し、同時に、地上のスペクトルのレファレンスデータとの相関を取る体制、更に天候に依存しない計測のバックアップ体制としてのUAVリモートセンシングの併用等を同時に構築する必要があります。また、リアルタイムに情報を提供し、さらにその使い方を指導する体制も作らなければなりません。
農業リモートセンシングの現状と課題
人工衛星画像の農業への利用については1990年代から北海道の稲の圃場への応用を中心に行われてきましたが、本州では圃場の区画が小さいことから衛星の利用は研究など限定的であったといえます。日本で人工衛星利用が進まなかった理由として、
- 画像の取得頻度が少なかったことと
- 1シーンあたりの単価が高かったこと
- 農業現場で直ぐに使えるコンテンツが提供されなかったこと、などの原因があげられます。
衛星リモートセンシングが万能であるかのような印象を受けることもありますが、広域を一度に計測する手段として重要だということであり、植物の生育状況や地域の違いによるスペクトルへの反応の現れ方の違いについては、地上での計測が全てといってよいです。まず、基礎となるデータは定点観測などでリアルタイムに行うことが重要であり、そのデータを広域のデータに反映させて植生指数の地図を作ることになります。天候の影響などで衛星画像が入手できない場合にはUAVを飛ばして撮影することが不可欠となり、地上計測と衛星及びUAVによるデータ補完の連携体制をいかに構築するかが現在の大きな課題となっています。
我々が提言する農業リモートセンシングを発展させるためには、「ハイパースペクトル」「衛星‐地上計測の連携システム」「イノベーション」の3つの必要性があります。
委員会の設置
農業リモートセンシング事業を推進するために、「農業における衛星利用開拓委員会」を北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)内に設置しました。
この委員会の主な活動は次の通りです。
- 衛星リモートセンシングの実利用に関するフィールド実験等事業の推進
- ハイパースペクトル技術を用いた評価指数の研究開発の推進
- 農業リモートセンシングのための超小型衛星システム及びハイパースペクトルセンサの開発支援
- 国、国会議員、関係機関・団体との連絡調整
- 国内における精密農業団体との連携及び連絡調整
- 農業リモートセンシングの事業化実現に向けて必要な啓蒙、展示
- その他、研究会の目的を達成するために必要な事項
Link:北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)